45歳の生徒さんの思い出

ある日、わたしの住んでいる札幌市のピアノ教室に40代半ばとおぼしき女性が訪ねてきました。

背が高く、そしてどちらかといえば大柄の体躯を小さく縮めるようにしながら

はにかんでこう言いました。

「こんなおばさんが恥ずかしいんですけど、ピアノを習いたいんです。」

よくよく聞けば、保育士の資格を取りたいが為、課題曲である童謡のピアノも勉強しなくてはいけないということでした。

今は保育士の助手として働いているが、勤務している札幌市の保育園で札幌市の保育士求人が間もなく再開されるので、助手ではなく保育士として採用試験を受けてみたいのです、とのご事情。

彼女がわたしの教室を訪ねてきた時点で、札幌市の保育士試験のピアノ実技までは2か月程度しかなかったのですが、

なんとも言えない話し方、仕草からとても温かい人柄を彼女に感じたわたしは

快く引き受けることにしました。

それから週に2、3回ペースでスパルタ詰め込み一夜漬けピアノレッスンが始まりました。

彼女は小学生のころにピアノを習ったきり、45歳になる今までずっとやめてしまっていたこと、

一度アフリカ人の男性と結婚をして一女をもうけたものの、旦那さんが日本になじめずに自分と娘を置いて、本国に帰ってしまったこと、そして本国で新しい家族を作ったこと。

でもそれであの人が幸せならそれでいいと思っている。

などなど、いろんなことを話してくれました。

犬が大好きで、娘さん想い、働いている保育園の子供たちの事もとても大切に

ケアしているのがよく伝わってきて、

彼女みたいな人が保育士に採用されたらいいな、

とわたしもレッスンに自然と力がはいったものでした。

保育士になりたい、といってわたしの教室に訪ねてきた生徒でもう一人記憶に残っているのは、まだ23歳のMちゃん。

Mちゃんは若いのにものすごくしっかりしていて、その当時は介護士として病院で働く忙しい毎日でした。

一見、男の子のような風貌で、髪も短く服装もボーイッシュ。いつもアースカラーの服をきて自転車にのってレッスンに来ました。

彼女は介護士として働いてはいるものの、いつか子供相手の仕事に転職したいという夢があり、

「保育士求人ってこれからも絶対なくならないと思うんです。あとは教員免許にもいつか挑戦したい。ピアノは試験で必要になるし、いきなり弾けって言われても弾けないから

今からちょっとずつ数年かけて慣れるつもりです。」

23歳ですでに手に職があって働いているのに、よく考えてるなぁと感心の一言でした。

前述の女性と、このMちゃん二人に共通しているのは、本当に人に対して誠実だということ。こんな人が保育士になってほしいなと心から応援したくなりました。

その後。Mちゃんはまだ介護士として働いていますが、45歳の女性は無事に保育士として採用され、新しい毎日を楽しく過ごしています、とお知らせを頂きました。

うれしい限りです。