浮気調査を頼まれた大学生

これは父から聞いた話だ。

父が大学生だった昭和の終わり頃、ちまたの大学には「探偵」をサークル活動として行うことがあった。

広島の某大学の父もその影響を受けて自ら探偵クラブを立ち上げた。といっても本格的な依頼はなかなか来なくて、部室内で好き勝手やっていた。今でいう飲みサーみたいなものだ。

ただポツポツと仕事の依頼が来るようになった。

ここの家には住居人がいないのだがかつて誰が住んでいたのか調べてほしい、友達にサプライズしたいから一緒になって計画を立ててほしい、などだ。

まあざっくばらんになんでも屋のような地位を徐々に確立していったのだ。場合によっては依頼にお金が発生することもあり探偵クラブメンバーは父を中心に活気づくようになる。

そんな時のことだ。

30代半ばの女性からある依頼を受けた。

「この人が浮気しているかもしれない。お金はしっかり出すから証拠を掴んでほしい」と。

ドラマにでも出でくるような本格的な依頼に父ははじめ動揺したが、それでもやってみたい好奇心のほうが勝りその依頼を承諾した。

その彼氏さんの浮気の証拠を掴むまではすぐだった。

彼が勤めているという会社から彼をつけていったら、ある女と居酒屋へ入っていった。まだ浮気とは確定していないため、父とメンバーの女の子はカップルを装って同じ店に潜入した。

彼はお酒が進むと顔がとても赤くなり上機嫌になった。その相手の女性ともキスをするのは時間の問題で、案の定その後しばらくして二人はキスをした。店で写真を撮るわけにはいかないので、その場に依頼主の女性を呼び出した。時代が時代だから公衆電話からその旨を伝えて自宅で待機していた依頼主の女性に変装してから来るように伝えた。

彼女は30分後には到着し、父達とともにテーブル席に陣取り、じっくり彼の様子を見つめていた。

それから彼女は事実を把握して涙ぐみ、父はいたたまれなくなってハンカチを渡した。

その瞬間、彼女は父のことをに睨みこう言った。

「あいつに復讐したい。今度はそれをあなた達に依頼するわ。もう我慢ならない。」

なぜ復讐代行までしなければならないのかと父は困惑した。

落ち着いてください、僕たちはただの探偵クラブでそこまで踏み入ることはできません、すみません。父は相手を説き伏せるようにゆっくりと一語一語に力を込めた。

女性はただ強く父を睨んだ。

しわくちゃで、涙と鼻水でべちゃせちゃな顔で。

そんな女性の顔をこれまで見たことがなかった父にとっては、それはいまだに忘れられない顔だそうだ。

父はその経験が今でもしっかり活きる社会勉強になったと語る。

僕はそれをコーヒーを飲みながらで聞いていた。